Stokes方程式 その2 〜無次元化とはなんぞや

意外と長くなってしまったので,記事を分けました.


Stokes方程式の導出にあたっては,今回お話する無次元化がかなり大事なところなので,
これについてしっかりまとめておきたかったという狙いがあります.


高校生にもわかるように,という目標で書いているので,かなりくどくなっていますが,
ご容赦ください.

Navier-Stokes方程式の無次元化

説明が極めて中途半端という問題を置いておくと,出発点となるNavier-Stokes方程式が,前回,とにかく得られました.
続いて,こいつを無次元化してやります.
するともちろん,無次元化とはなにか?そのメリットは?という話になりますよね.
(無次元化なんか知っとるんや!という人は結論までとばしてください)

次元と単位

まず,一応,次元単位という言葉の使い分けについてまとめておきます.
簡単なようですが,大事なことです.
物理の文脈での次元ということばは,ある物理量がどういった物理量を表すかを示します.
たとえば,xは長さの次元を持つ,と言えば長さを表すわけです.
当たり前のこと言ってますね笑
基本的な次元として,長さ,質量,時間が存在し,それぞれ一般的にLMTを用いて表します.
圧力PL^{-1}MT^{-2}の次元を持つ,と言ったりします.
一方,単位というと,実際に計量を行うイメージになります.
圧力の例で言うと,圧力P\text{m}^{-1}\cdot\text{kg}\cdot\text{s}^{-2}のように,それぞれの次元を表すアルファベットの代わりに,
実際にどういう尺度で計量を行ったかを表す指標を代入します.
次元は,「どんな測り方でもいいけど,とにかくこういう量なんだよ」,という性質を表し,
単位は,「こういう物理量をこういう指標で測るよ」,というより細かな指定を行うイメージですね.

無次元化とは?

ある次元付きの物理量を用いるに当たり,特定の単位の何個分,として表現してやることです.
ようはある物理量を,同次元のある量で割ってあげることに相当します.
すると,次元が相殺しあって,次元のない数(個数に対応)が得られます.
...全然意味がわかりませんね.
でも,これって割りと当たり前に普段から行っていることで,たとえば「身長なんぼなん?」と聞かれたら「180ちょうどくらいですわ」と答えますよね.
暗黙のうちに「cm」をお互いが意識しており,単位をつけなくても意思疎通が成立するわけです.
上述の通り,ここで答えているのは,「身長÷cm」の答えであり,cm何個分ですよ,という意味になります.
単位として認知されているものを用いれば,単位を与えることと同義と言えるかもしれませんね.
また,ポイントとして,自分たちに都合のいいように単位を選択してやる必要があります.
勝手にインチをイメージして,「70くらいですわ」と答えたら「何言うてんねん?」という話になって会話が通じない可能性が高いでしょう,日本の場合.
これは「都合の悪い無次元化」を行っているからですね.
一方,キティちゃんのプロフィールを見てみましょう.
意外とばばぁやないかい,というのも気になりますが,注目して欲しいのは彼女の身長・体重です.
身長:りんご五個分
体重:りんご三個分
これもまさに,りんごの長さ,りんごの重量による無次元化ですね.
「身長÷りんごの長さ」「体重÷りんごの重さ」として,5,3という無次元の数が得られています(個数は無次元).
一昔前,某巨大ネット掲示板で,某有名ミュージシャンの身長を身長の単位にして「1.2HY◯E」等と表現していましたが,
これも無次元化のいい例かもしれません.

無次元化のさらなる利点(相似則)

ほな無次元化いうんは単位を好き勝手読み替えるだけかいな?
という話になります.一つの物理量のみをターゲットにした場合はそうかもしれませんが,
方程式で記述される物理現象を対象にする場合は,さらなる利点が得られることが知られています.
Navier-Stokes方程式を例にとって考えてみましょう.


\begin{align}
\rho \left( \frac{\partial \boldsymbol{u}}{\partial t} + \left( \boldsymbol{u}\cdot \boldsymbol{\nabla} \right) \boldsymbol{u}\right)
=-\boldsymbol{\nabla} p + \mu \boldsymbol{\nabla}^2\boldsymbol{u} + \boldsymbol{F}
\end{align}

もう一度書いておきました.
ひとまず,何も考えずに上式の無次元化を行ってみましょう.
無次元化に当たり,特徴的な物理量というものを考えます.
これは,後述の無次元化の難しさにも関係してくるのですが,
ここではとりあえず,代表的な流速U_0,代表的な長さL_0,代表的な圧力P_0=\rho U_0^2(代表的な流速に対応した動圧の倍と定義.情報としては流体密度の情報が添加されたのみとなる)を用いて無次元化を行いましょう.
変数が無次元化されているよ,ということをハット記号で表すことにする.

\begin{align}
\boldsymbol{u} &= U_0 \hat{\boldsymbol{u}}\\
\boldsymbol{\nabla} &= \frac{1}{L_0}\hat{\boldsymbol{\nabla}}
\end{align}
のような変換関係が存在することを考え,T_0=L_0/U_0F_0={P_0}/{L_0}{\boldsymbol F}は体積あたりに働く力と定義されている)等を導入すると,無次元化された式は以下のようになります.

\begin{align}
\frac{\partial \hat{\boldsymbol{u}}}{\partial \hat{t}}+\left( \hat{\boldsymbol{u}}\cdot \hat{\boldsymbol{\nabla}}\right)\hat{\boldsymbol{u}}=-\hat{\boldsymbol{\nabla}}\hat{p}+\frac{1}{Re}\hat{\boldsymbol{\nabla}}^2\hat{\boldsymbol{u}}+\hat{\boldsymbol{F}}
\end{align}
ここで,Re=\frac{\rho U_0 L_0}{\mu}おきました.このReはおなじみにレイノルズ数と呼ばれる数になります.
ニュートン流体の動力学的性質は,このレイノルズ数のみに依存することが知られており,これを相似則と呼びます.
レイノルズ数のみに依存するとは,レイノルズ数が同じであれば,マグカップ周りのものすごく速い流れも,火山の周りの比較的ゆっくりした流れも,
同じような動的性質を示すことが結論付けられる,という意味です(例.マグカップ,火山の後方に渦が形成されるなど).
なぜこのようなことが言えるか,は上の無次元化した式を眺めるとわかります.
上の式ではとにかくすべての変数を特徴的な3つの変数L_0U_0P_0を用いて無次元化してしまいました.
すると,数式全体を特徴づけるパラメータはすべてレイノルズ数Reの中に押し込められてしまいました.
その他の数はすべて無次元化,すなわち無個性化されているので,観察系に特異的な情報は持っていません.
このように,無次元化を行うと,方程式が表す動力学的性質を一つのパラメータで理解できるようになるのです.